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大学院の学費、留学費用と特別受益

2021年3月28日

名古屋高裁令和元年5月17日決定 判例時報2445号

 

被相続人(父)が亡くなり、その子の間で遺産分割が争いとなりました。とくに生前に親から受けた色々な利益が特別受益になるかどうかが強く争われました。
特別受益(民法903条)とは、相続人が被相続人から遺贈を受けた場合、婚姻・養子縁組・生計の資本として贈与を受けていた場合に、公平のため相続時にそれを考慮する制度です。

 

学費・留学費と特別受益に関する一般論

 

名古屋高裁は、学費・留学費が特別受益に当たるかどうかに関する一般論としてこのように述べました。
「学費、留学費用等の教育費については、被相続人の生前の資産状況、社会的地位に照らし、被相続人の子である相続人に高等教育を受けさせることが扶養の一部であると認められる場合には、特別受益には当たらないと解するのが相当である。」
つまり、私学の教育費や留学の費用については、「扶養の一部」に当たる場合には特別受益にならない。
「扶養の一部」に当たるか「特別受益」になるかどうかの判断については、生前の資産状況や社会的地位などを要素として判断するということです。

 

具体的な事件に関する特別受益の判断

 

この事件の具体的事情について高裁は次の様に判断しました。
「被相続人一家は教育水準が高く、その能力に応じて高度の教育を受けることが特別なことではなかったこと、
原審申立人が学者、通訳者又は翻訳者として成長するために相当な時間費用を費やすことを被相続人が許容していたこと、
原審申立人が自発的に被相続人に相当額を返還していると認められること、
被相続人が原審申立人に対して援助した費用の清算や返還を求めるなどした形跡はないこと、
また、被相続人は生前経済的に余裕があり抗告人や妻に対しても高額な時計を譲り渡したり、宝飾品や金銭を贈与したりしていたこと、
抗告人も一橋大学に進学し在学期間中に短期留学していること、
被相続人が支出した大学院の学費や留学費用の額、被相続人の遺産の規模等に照らせば、原審申立人の大学院の学費、留学費用は原審申立人の特別受益に該当するものではなく、仮に特別受益に該当するとしても、被相続人の明示または黙示による持ち戻し免除の意思表示があったものと認めるのが相当である。」
この部分を読むと、高裁は、①被相続人一家の教育水準 ②子どもの目指す進路を許容していた被相続人の意思 ③生前経済的に余裕があり家族に高額な贈与をしていたこと ④被相続人の遺産規模 などを考慮要素として判断しています。ただ、高裁が列挙している事情の一部は持ち戻し免除の意思表示があったことを判断する要素とされているので、どちらの要素なのかその区別が分かりにくいです。両者を明確に区別しないで判断した点はちょっと雑ですが、とにかく駄目だよと言いたかったのでしょう。

 

解説


特別受益の制度は相続人間の公平を図るための制度ですが、このケースでは一人の子どもだけでなくもう一人の子どもに対しても多大な援助を受けていることもあり、特別受益に該当しないとしても相続人間の公平を害することはないと判断されたのです。

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