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相続させる遺言と民法1002条

2023年1月1日

民法第1002条は、負担付きの遺贈に関する規定で「負担付遺贈を受けた者は、遺贈の目的物の価額を越えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負う。」とされています。
遺贈というのは自分が死んだときに何かを贈与するということで、負担付遺贈とは単に物をあげるだけでなくそのためには一定の金を払うなどの負担が付いている遺贈のことです。1002条は、遺贈を受けた人がもらった物よりも高額な負担を強いられるのを防ぐ規定です。今回はこの条文の適用が問題になった大阪地方裁判所令和3年9月29日判決を紹介します。
この事件で問題になった遺言書には
「ある土地の持分の1/3を、Aに取得させる代わりにB、C、Dに各500万円、Eに1000万円、F、G、Hに各333万円ずつ(ちょっと簡単にしています)支払う。」という記載がありました。
  そして、被相続人が亡くなりました。相続人間で遺言の効力が争われることはよくありますが、この事件では遺言書のとおりに金を払って欲しいとAが言われ、それではかえって赤字になるので民法1002条の適用を主張して裁判になりました。
争点
民法1002条は条文の文言のとおり負担付遺贈に関する規定ですが、これが負担付きで相続させるという遺言にも類推適用されるか?これが争点です。
地裁判決
1「負担付きで「相続させる」趣旨の遺言がされた場合も遺産分割の方法の指定であると解される。」(※ここは前提となる問題について立場を明らかにしています。)
2「当該負担が特定の遺産の価額を超える場合、」(この事件の様に相続した遺産よりも負担の方が高くなってしまう場合を次の2つに場合分けしています。)
(1)「遺言者の意思として、遺言による遺産分割の方法の指定とともに遺言による相続分の指定によって相続分が変更されたと解すべき場合がある一方で、」
(2)「被相続人である遺言者が相続人間の公平を図る趣旨で特定の遺産を取得する相続人にその対価を他の相続人に支払うことを求めたものの、その後の事情の変更などによって当該負担が特定の遺産の価額を越えたにすぎない場合もある。」
※と、この(1)と(2)の二つの場合に分けたうえで
※(1)の場合については、
「遺言者が負担付きで「相続させる」趣旨の遺言をした意図が、相続分の変更を含むものであれば民法1002条1項が類推適用される余地はなく遺留分減殺請求による調整や相続放棄による負担からの解放が残るのみであるが、」
※(2)の場合については、
「相続人間の公平を図る趣旨に基づくものであれば、特定の遺産の価額を超える負担を特定の相続人に負わせることまでは被相続人として予定していなかったのであり、当該相続人が過大な負担を甘受すべき理由もないのであって、同項の趣旨がこのような遺言にも当てはまることになるから、同項を類推適用するのが相当である。

※結局、被相続人がそのような遺言を書いた趣旨(意図)によって結論が分かれることになります。そして、このケースについては次のように判断しました。
「本件公正証書遺言については、その遺産のうち特定の財産である本件持分に限定したものであり、遺言者である被相続人が、本件負担似ついて、本件持分を取得させる代わりにAに負わせる意図、すなわち、相続人間の公平を図る趣旨に基づくものであったと解され、これを超えて本件持分の価額にかかわらず、遺言による相続分の指定によって相続分を変更させる意図まで有していたことはうかがわれない。寄って、本件公正証書遺言については民法1002条1項が類推適用される。
※この判決によってAは相続した財産以上の支払をする必要はないことになります。
民法1002条はそんなに目にする条文ではありませんし、このような例が多く発生することもありませんが事例として参考になります。

 

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