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遺言能力欠如により公正証書遺言が無効とされた例

2018年11月18日

遺言能力欠如により公正証書遺言が無効とされた東京地裁の事件の事案

 東京地裁平成29年6月8日判決(判例時報2370)

 認知症により遺言をする能力が無かったとして公正証書遺言が無効とされた事例を紹介します。公正証書遺言も絶対安全というわけではありません。

 この事件の遺言者は平成16年に遺言を作成し,平成23年に内容の異なる第二の遺言を作成しました。この平成23年に作成された遺言の効力が裁判で争われました。

 東京地裁の判決

 東京地裁は遺言者に関する色々な出来事から平成23年当時の遺言者の精神能力を検討して判断しています。

裁判所が考慮に入れた事実を指摘してみます。

 1 遺言者は平成18年ころから物忘れが目立つようになり,18年11月以降は長谷川式簡易知能評価スケールで16点ないし18点で推移していた。

 2 遺言者は平成19年5月までにアルツハイマー型認知症と診断されていた。

 3 平成20年11月,要介護認定・要支援認定のための調査が行われた。その際,服薬しているがその認識がなく,電話の内容等もすぐ忘れてしまう,一日の予定をホワイトボードに記載してもこれを理解・記憶することができず子供に何度も電話してくる。 当時の季節と月を答えることができず,調査中,妻がどこにいくのかを7回尋ね,妻がいないのに自分はどのように生活をしているのかを確認していた。

 4 平成20年11月の意思の意見書では,認知症の中核症状として短期記憶に問題があること,自分の居場所か分からなくなることがあることが指摘されていた。

 5 平成21年3月に要介護認定・要支援認定のための調査が行われたが,そのときに次の事情がありました。

 季節に適した服装を選択することができない。 服薬について薬を飲む時間や量を理解できていないため家族が食事と一緒に準備しているが飲み忘れがある。 金銭管理について計算能力及び管理能力はない。 電話をかけ又は受けることはできるが,電話をかけたことや話の内容等を全く覚えていない。 ホワイトボードに一日の予定を家族が書いているが理解しておらず自分では何をすべきか分からずに一日に何度も家族に電話をかけて聞く。 調査日に家族と病院に行ったことを覚えていない。 季節の理解ができず寒い日に暖房をつけずに薄着で震えていたことがあった。 妻が入院していることが分からず不安になっている。 習慣的なことを除き直前の会話の内容や出来事を記憶していない。 調査中にジュースを飲みながらビールを飲んでいると何度も繰り返し話していた。

 6 平成23年3月、要介護認定・要支援認定のための調査が行われましたが,次の事情がありました。 配膳された通常食を自力で食べたすぐあとに「ご飯は?」と聞く。 一人だとヘルパーが来る日に散歩に出かけてしまい不在となることが月に2回ある。品物を見せて3分後に聞いても忘れて答えられない。 散歩も決まった場所でないと外出しないが時々帰らない。 同じ質問ばかり何度もして,一分おきに聞くのを非難すると感情が混乱して泣く。 介護関係者の顔を忘れている。 東北沖大地震のニュースを見るたびに新鮮に驚く。 伝言や約束事ができない。 薬の飲み忘れが多い。 行きつけのパン屋で同じパンを繰り返し買って食べてしまう。会計は店員に任せている。 会員の協力でテニスクラブに通っているがそれ以外の場所には行けず動作上はスポーツが出来るが,テニスクラブが休業であると伝えた直後に出向いてしまう。

 7 平成23年3月の主治医意見書には徘徊にチェックされている。

裁判所の結論

 これらの事実を踏まえて裁判所は次のように言います。

 「遺言者は本件遺言を行った当時,アルツハイマー型認知症により,その中核症状にとして,短期記憶障害が相当程度進んでおり,自己の話した内容等,新たな情報を理解して記憶にとどめておくことが困難になっていたほか,季節の理解やこれに応じた適切な服装の選択をすることができず,徘徊行動及び感情の混乱等も見られるようになっていたということができるから,

その認知症の症状は少なくとも初期から中期程度には進行しており,自己の遺言内容自体も理解及び記憶できる状態でなかった蓋然性が高い。

 そして,本件遺言の内容には・・・本件遺言は平成16年遺言に比して複雑な内容となっていることも指摘できる。

 以上の事情を総合考慮すると,本件遺言内容について遺言者が遺言を行う能力は欠けていたと評価すべきものであり,本件遺言は無効であるというべきである。」

 感想

 要介護認定・要支援認定の調査における記録を客観的な記録として重視し,複雑な遺言の内容も考慮して,その遺言を無効と判断しました。遺言の効力に関する事例判決として参考になるでしょう。

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