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高齢者の売買が意思能力欠如で無効に

2019年8月31日

東京地裁平成26年2月25日判決(判例時報2227号)



高齢者といえども不動産を売るなどの行為はすることができます。ただし、契約などの重要な行為をするためには「意思能力」が必要です。意思能力というのは、行為の結果(それによって自分の権利・義務が変動するという結果)を弁識するに足りるだけの能力のことです。この意思能力とは子供でいえば7から10歳程度の能力とされていますが、認知症などのためにこの意思能力が失われている場合があります。
そして、意思能力を欠いた人が売買などを行ってもそれは無効とされます。
高齢者が不動産を売却しましたが、その売買契約が意思能力がないことを理由に無効とされた判決があります。


(事案)

 

時系列で起きた出来事を紹介していきます。
平成2年頃、高齢者Aは長女とその夫に対し、アパートの一部を賃貸した。長女らは改装費に1000万円を出費し家賃は20万円でした。
平成22年5月27日、高齢者AがB社(不動産業者)に対し、土地建物(アパート)を代金5600万円で売却する契約を締結した。
平成22年8月4日、B社が売却された建物の一部に賃借人として住むMら(Aの長女とその夫)に対し、転居を求める通知を出した。
平成22年11月8日、Aの夫は死亡した。
平成23年3月3日、Aは死亡した。


(判決の要旨)


裁判では鑑定が行われ、鑑定人は「Aは認知症に罹患していたがその程度は軽度ないし中等度であり判断能力あるいは意思能力が著しく減退していたとは考えにくい。
」と鑑定していました。しかし、裁判所はこの鑑定結果を採用せず、Aは売買契約当時、意思能力がなかったと判決しました。

 

(判決が重視した事実)


裁判所がAの意思能力を判断するうえで重視したのは次の事実でした。


1 売買契約の内容が合理的でないこと


Aが不動産会社に土地建物を売った契約の内容が合理的でない。
売買代金である5600万円という価格自体は不相当に低廉ではない。しかし、住んでいる長女とAの関係が悪かったことはない、長女らはもともとAから勧められて入居し、Aが銀行から借り入れるときには長女らが連帯保証人になり、長女がいずれは本件土地建物を引き継ぐことが予想されていたことなど、Aと長女との関係性やこれまでの経緯からすると極めて不合理な内容であるとしました。


2 平成20年6月ころには認知症の症状が一定程度出現していたこと


そのころAは買い物に行っても目的の物を買ってくることかできないことがほぼ毎日のようにあった。物事を処理する優先順位うまくつけられない。などから記憶、見当識の障害や被害妄想等の認知症の症状が一定程度出現していた。


3 平成21年2月ころに認知症と診断されていること


そのころ高血圧の薬の管理ができないという実行機能障害があり、医師はMRI検査により後方型大脳萎縮を認め、初期から中期程度のレビー小体型認知症と診断した。


4 平成22年3月に大脳萎縮の進行が認められていること
5 平成22年6月に慶應病院で認知症と診断されていること
6 Aが長女に本件の売買契約を報告できなかったこと
7Aには「理解できなくてもあたかも理解したかのような態度をとる」という顕著な取り繕いの傾向があったこと。


鑑定に対する裁判所の判断


この事件において裁判所から選任された鑑定人は、Aは認知症に罹患していたがその程度は軽度ないし中等度であり判断能力あるいは意思能力が著しく減退していたとは考えにくいと意思能力を肯定する結論でした。
しかし裁判所は自ら選任した鑑定人の結論とは反する判断をしました。
裁判所は、Aを直接診察してきた医師の診断をどのように捉えているのか明らかではない、Aが周囲に取り繕ったり迎合的になったりする顕著な傾向を有していたこと、本件売買契約自体が極めて不合理な内容であることなど、本件売買契約当時のAの意思能力の有無をするに当たって重要な点が十分に考慮されていない、HDS-Rでは高得点を獲得していたが、これは簡易なスクリーニングテストであって、これのみによって認知症の診断を下したり、その重症度を判断することには危険がある、などの理由から、鑑定の結論をとらずにAの意思能力を否定しました。


解説


鑑定は専門家がその知見によって判断した結果ですからとても重視されます。しかし、判断するのは裁判所なので鑑定の結果には拘束されません。この事件のように鑑定とは異なった結論を出すこともあります。

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