2年間遺産分割を禁止する審判

遺産分割を禁止する審判

名古屋家裁令和元年11月8日審判(判例時報2450・2451合併号)
遺産分割申立事件において家庭裁判所が2年間、遺産分割手続を禁止するという審判を出した例があるので紹介します。事案の内容等は理解しやすくするため少し改変してあります。

事案

このケースは非常に複雑で時系列で次のことが起きました。
1被相続人が姪を養子として姪に全財産を相続させる遺言を作成しました。
2被相続人が長男に全財産を相続させるという遺言を作成しました。
3被相続人が長男の二人の子とその配偶者と養子縁組しました。
4長男が亡くなり、被相続人が亡くなりました。
長男の子どもらが姪を相手方として遺産分割の審判を申し立てました。

双方の主張

長男の子らは、第1遺言は第2遺言により撤回された、第2遺言は長男が被相続人よりも先に死亡した場合には長男の代襲者であるその子らに全財産を相続させる趣旨であると主張しました。また、第1遺言の無効確認訴訟の準備中だとしました。
姪は、第2遺言は長男の死亡により効力を失った、その結果、第1遺言は効力を維持するので姪が全財産を相続すると主張しました。

この場合の問題点

家庭裁判所が遺産分割審判(審判というのは判決の様なものです)を行うためには、
その前提問題として、当事者が主張している第1遺言と第2遺言の法的効力について判断をしなければなりません。
ところが、この様な前提問題(遺言の法的効力)に対する審判中の判断には既判力がありません。
したがって、遺言の法的効力について別の民事訴訟で争われて(長男の子らは訴訟提起すると言っています)、その民事訴訟において家裁の審判と別の判断が出る可能性があり、そうなると家裁の審判は民事訴訟の判決と抵触する部分が無効になってしまいます。そういう効力の不安定な審判は出すべきではないのではないか?という問題がありました。

家裁の判断

家裁の審判部分は次のとおりです。
「当裁判所が本件第1遺言及び本件第2遺言の効力等について判断の上で遺産分割審判をしたとしても、その判断が提起予定の訴訟における判決等の内容と抵触するおそれがあり、そうなれば、既判力を有しない遺産分割審判の判断が根底から覆されてしまい、法的安定性を著しく害することとなるから、本件第1遺言及び本件第2遺言の効力等に関する訴訟の結論が確定するまでは、遺産の全部についてその分割をすべきではない。・・・
本件第1遺言及び本件第2遺言の効力等に関する訴訟の結論が確定するまでには、向こう2年程度の期間を要することが見込まれるから、令和3年11月7日までの間、被相続人の遺産全部の分割を禁止することが相当である(なお、それより前に当該訴訟が解決に至った場合には、事情の変更があったものとして、分割禁止の審判を取消またはすることが可能である(家事審判手続法197条)。」

解説

相続について交渉で解決できないときにまず最初に利用されるのは遺産分割調停です。しかし、調停は裁判所で行う話し合いですから調停では解決できないこともあります。そのときは民事訴訟という普通の裁判を起こすことになります。
この事件で良く分からないのは、どうしてこういう審判を出す必要があったかということです。当事者間で争っている以上、合意で遺産分割する以外に方法はないのだから、2年間の遺産分割禁止と言われても意味がありません。この審判がなくても事実上、分割できないはずなのです。おそらく家裁は申立人に対して審判の取り下げを促したけれども申立人がそれに応じなかったものと推測されます。

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