相続開始から10年以上経過してからの遺留分減殺請求

遺留分の行使には2つの期間制限があります。一つは遺留分権利者が相続の開始及び減殺すべき贈与または遺贈があったことを知ったときから1年間(民法1042条前段),もう一つは相続開始のときから10年を経過したときです(1042条後段)。前段と後段の違いは,遺留分権利者が知ってから時効が進行するか,知っていなくても進行するかという点です。相続開始から10年以上経過した後の遺留分減殺請求権行使について判断した高裁判例があるので紹介します。

仙台高裁平成27年9月16日判決

事案

被相続人が亡くなり,その一年半後相続人全員で遺産分割協議が行われましたが,その席で,「遺言書があるが開封されているためこの遺言は無効である」として遺産分割協議を続けました。

ところが,被相続人の死亡から13年経過した後の第4回の遺産分割協議において,被相続人の子が,この遺言は有効であると見解を改め,相続開始後10年を経過しているのでもはや減殺請求はできない,遺産分割協議を継続しないという発言をしました。

その約八カ月後,相続人の一人が遺留分減殺請求の意思表示をしました。

高裁判決の要旨

民法1042条後段が遺留減減殺請求権について,相続開始から10年間を経過したときは消滅すると定めた趣旨は,相続をめぐる法律関係の速やかな確定を意図することにある。

この趣旨に照らすと,本件は遺言としての権利主張が相続開始のときから10年以上を経過した後になって行われており,その点において既に法律関係の速やかな確定の要請に背反する事態が生じている事案である。

さらに本件遺言は,相続開始の時から約1年六カ月経過後の時点で,その存在は明らかになっていたものの,同時に遺言としての有効性について無効であるとの見解が具体的な理由付けを含めて専門家の意見として紹介され,相続人全員がこれを信じて,以後,無効を前提として遺産分割協議が継続されていたという事情がある。

このような事情からすれば,この見解が誤ったものであったことを踏まえても,遺留分権利者において,相続開始のときから10年間にわたり,有効な遺言が存在することを認識しえず,その結果,遺留分減殺請求権を行使することを期待できない特段の事情があったと認めるのが相当である。

以上のような事情の下で,相続開始後,受遺者による相続開始の時から10年経過後の新たな権利主張が容認される一方で,これに対する遺留分減殺請求権の行使は一切許されないと解するのは公平の見地から相当とはいえない。

したがって,本件においては,民法1042条後段の適用については,同法160条の法意に照らし,遺留分権利者が,特段の事情が解消された時点から六カ月以内に同権利を行使したと認められる場合には,同法1042条後段による遺留分減殺請求権消滅の効果は生じないものと解するのか相当である。

ここまでが高裁の法的な判断です。ただし,事件の当てはめとしては,相続開始から13年後に行われた第4回の遺産分割協議で遺言が有効であると主張された時点から六カ月以上経過しているので,遺留分減殺請求を認めませんでした。 長い間,遺言が無効であることを前提に話合いをしていたら,10年以上経過してから, 突然,有効だ,もう10年経過しているから遺留分減殺はできない,などと主張されたのではたまりませんね。この判決はそういうケースについて双方の利益を調整した判決で参考になるものです。

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