遺留分権利者が占有する建物の明渡し請求

遺留分権利者が占有する建物を金銭を払って明渡請求する

東京高裁平成28年6月22日判決(判例時報2355号)

法律的な問題点

遺言によって建物を単独で所有することになった相続人が,その建物を占有する他の相続人に対し,裁判所が定める価額をもって弁償することを条件として建物の明渡を請求しました。建物を占有する相続人は遺留分減殺請求をしていました。少し変わった形での建物明渡請求に関する高裁の判決です。
民法1041条には,「受贈者及び受遺者は,減殺を受けるべき限度において,贈与又は遺贈の目的の価額を遺留分権利者に弁償して返還の義務を免れることができる。」
とあります。
遺留分権利者が価額弁償の意思表示をした場合で,受遺者が建物明渡を受けるためには(建物を明け渡せという判決を得るためには),価額弁償の意思表示だけではなく,少なくとも価額弁償の履行の提供をする必要があるとされています(最判54・7・10)。
そして,価額弁償をするときに価額を算定する基準時は,裁判においては事実審の口頭弁論終結時とされています。
そうすると,口頭弁論が終結して判決が出なければ弁償すべき価額が決まらず,当然に,価額を弁償するための履行の提供(金銭を払うだけの準備をすること)ができません。結局,民法1041条が定める価額弁償をすることは不可能となってしまいます。
こういう,法律や判例に従うとどうすればいいのかよく分からない場合の解決にこの高裁判決は取り組みました。
高裁は,占有者(遺留分権利者)は,本判決確定後30日以内に,相続人(不動産の所有者)から,金125万3628円の支払を受けたときは,占有する建物を明け渡せという判決を出したのです。ちょっと技術的にすぎて分かりにくいのですが,要するに,遺留分権利者が遺産である不動産を占有する場合、その不動産を相続で取得した人が金銭を払って明渡請求ができるという方法を具体的に示しました。

高裁判決

高裁判決の中心部分を次に書いておきます。難しいので無理に読む必要はありません。判決文というのは正確にするために文章が難しくなっているものなのです。

「遺留分権利者から遺留分減殺請求を受け,価額弁償の意思表示をした受遺者等が、当該訴訟手続において,判決によって確定された価額を支払う意思を表明し,弁償すべき価額の支払を条件として遺留分権利者の占有する目的物の引渡し等を求めた場合は,
受遺者等に価額を弁償する能力がないなどの特段の事情のない限り,弁償すべき価額を定めた上、上記支払があったことを条件として遺留分権利者の占有する目的物の引渡等請求を認容することができ,上記条件の設定に当たっては,権利関係を速やかに確定させるため,期限を付すことも許されると解するのが相当である。
本件において,被控訴人から遺留分減殺請求を受け,価額弁償の意思表示をした控訴人は,本件訴訟手続において,判決によって確定された価額を支払う意思を表明し,
弁償すべき価額の支払を条件として被控訴人の占有する本件建物の明渡し等を求めており,(なお、被控訴人が当審における予備的請求において条件とする価額弁償とは,その主張に鑑みると,本件建物及び借地権に限っての価額弁償ではなく,遺産全部についての価額弁償であると解される),
また,多額の損害賠償金を受領し,亡Aに定期的な資金援助まで続けていた控訴人にわずか125万円程度の価額を弁償する能力がないとはいえないから,上記特段の事情があるとはいえない。
そして,本件においても,権利関係を早期に確定する必要性があることに変わりはないものの,控訴人が弁償すべき価額の原資を準備する期間も考慮する必要もある。
以上のような事情に照らせば,本判決確定後30日以内に控訴人から125万3628円の支払を受けたことを条件として,被控訴人に対し,原判決別紙物件目録記載の建物の明渡しと上記支払を受けた日の翌日から原判決別紙物件目録記載の建物明渡済みまで一カ月1万2554円(7万5320円-6万2766円)の割合による金員の支払を命ずるのが相当である。」

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