遺言書を入れた封筒の記載も遺言か

東京地裁令和2年7月13日判決 判例時報2485号

遺言書を入れた封筒の表面に「私が妻より先に死亡した場合の遺言書」という記載があった場合、この封筒の記載が遺言書に影響するか?という問題について判決が出ました。地裁判決ですが珍しいケースですので紹介します。
夫が遺言書を残しました。子供が二人(長女と長男)います。妻が先に亡くなりました。
この遺言書には、妻と長女に財産を相続させる趣旨の次の1から10までの記載がありました(少し簡略化しています)。

1 土地建物は妻に5分の3、長女に5分の2を相続させる。
2 妻に、ゆうちょ、りそな、みずほの各銀行に有する普通預貯金を相続させる。
3 長男には相続時清算課税にかかる財産として1000万円を贈与済である。
4 長女に、三井住友銀行に有する普通預金および米国ドル建て預金、ゆうちょ銀行の定額定期貯金を相続させる(合計約3254万円)。
5 日本生命の死亡保険金等は妻の持ち分とする。
6 自動車を長女に相続させる。
7 その他の遺産は全部妻に相続させる。
8 妻子承継者として長女を指定する。
9 私と妻の体調が極めて悪く生活の維持が危うい状態にあった当時に長女が生活を援助するために私の自宅に転居し生活の援助、自宅の手入れ等をしてくれたことに感謝している。
10 私の死後に妻の生活がどのようになるかについて大変心配しており、妻が平穏に生活できるように配慮を求める。

※1から10までの遺言の内容には問題はありません。次の封筒の裏の記載が問題なのです。
そして、遺言書の入った封筒には次の記載がありました。
封筒の表には「遺言書(本遺言書は家庭裁判所に提出のこと)」と書いてありました。
封筒の裏には「私が妻より先に死亡した場合の遺言書」と書いてありました。被相続人の住所氏名等も書いてありました。

裁判における原告・被告の主張

原告(長女)の主張

遺言書の内容は遺言書の本文の記載によって確定する。封筒の記載によって遺言の内容が変更されるものではない。だから遺言書のとおり預金を長女に払え。
※この裁判は、遺言書で利益を得る長女が原告となり、銀行に対して遺言書で相続した預金の払戻を請求したものです。被告は銀行で、長男が裁判に参加しています。

被告(銀行)と参加人(長男)の主張

封印がされた遺言書の封筒と遺言書の本文は一体をなすものので、封筒に書かれた言葉を含めて被相続人の意思を表示している。妻が先に死亡した場合の補充遺言もないことからも、この遺言はその全部について被相続人(夫)が妻よりも先に死亡することを停止条件としたものであり、妻が先に死亡したことによってこの停止条件の不成就が確定したものであるから、この遺言は無効である。

裁判所の判断

争点の1 封筒に書いてあることが遺言に含まれるか?
「封筒文言は、被相続人により本件封筒の裏面に記載されていたこと、本件封筒は遺言書本文が封緘され、被相続人による表題記載、住所等記載がされ、本件封印がされたものであったことが認められる。
以上によれば、本件封筒と遺言書本文は一体のものとして作成されたと認められるから、封筒文言は遺言書本文の記載と同様に本件遺言に含まれる。」
※この部分は、封筒と遺言の外形的な事実だけから両者の一体性を認定しています。

解説
上のように争点に対する判断そのものは封筒と遺言の外形的な面から判断しています。しかし、その後に、裁判所は遺言者の生前の行動などから、遺言者がこの遺言をした動機を実質的に判断しています。この実質的な判断とその動機に基づく遺言の趣旨の判断が基礎にあります。決して外形的な一体性だけで判断したのではないのです。
やはり遺言が争点となる事件では、遺言者の生前の状況や被遺言者との関係などの実質論がとても重要になります。

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