公正証書遺言作成のときにうなづいただけの場合も有効か

公正証書遺言は公証人に作成してもらう遺言です。しかし,公証人が作るといっても遺言者の意思のとおりに遺言を作るものですから,遺言者の意思の確認が重要です。そこで遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授することが公正証書遺言の要件とされています。

口授というのは言葉で述べることですから,遺言者が全く話せないのでは困難です。そういう事件の判例があります。

昭和51年1月16日最高裁判決

事案

遺言者は入院していました。公証人は証人らとともに病室に行き,病床の遺言者に対し,「子供のことで遺言をするのは本当か。」(認知のことです)「〇〇はあなたの子供に間違いないか。」と尋ねると,遺言者はうなづきました。遺言者は公証人の全ての質問に対し,単にうなづいただけで一言も言葉を発しませんでした。公証人は遺言に間違いないと判断し,証人と遺言者に署名させて公正証書遺言を完成させました。

最高裁は次のように判断しました。

「遺言者が公正証書によって遺言をするにあたり,公証人の質問に対し言語をもって陳述することなく単に肯定又は否定の挙動を示したにすぎないときには,民法969条2号にいう口授があったものとはいえず,このことは遺言事項が子の認知に関するものであっても異なるものではないと解すべきである。」

公正証書遺言に「口授」が必要とされるのは,遺言者が遺言の趣旨を公証人に口頭で陳述することによって伝え,それがそのまま遺言書の内容として表示されることが,遺言書における遺言者の真意を確保する手段として適切だからです。この事件の様に,一言も言葉を発しないので,うなづいただけでは口授とは言えませんが,だからといって遺言の内容全てを細かく言葉で説明する必要もありません。

実際に公正証書遺言を作成する現場では,公証人が事前に用意した遺言書を一条ずつ少しずつ読み上げ,少しずつ内容を遺言者に確認して言葉での応答を求めて遺言者の意思を確認していく方法が取られることが多いでしょう。この程度の応対ができることが必要です。

私が将来意思能力の疑われる可能性のある高齢者の遺言作成を依頼された場合には,事前に遺言者と面談したときに,予定していた遺言内容の一部についてわざと反対して,違う内容にするのはどうかと聞いてみます。そして,そのときにはっきりと反対の意思を示してくれれば充分,判断能力があり,遺言能力はあると考えています。もちろん,誘導されていないかどうかとそのときの遺言者の態度にも気をつけます。 弁護士が関与する以上は,できるだけ後々紛争にならないようにしたいものです。

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