遺言能力がないとして公正証書遺言が無効とされた例

公証人によって作成された公正証書遺言が,遺言者の能力が無かったとして無効とされた裁判があります。

東京地裁平成28年8月25日判決

この裁判では,公証人は(当然ですが)遺言者には遺言能力があったと供述しました。

しかし,遺言作成の約一カ月前に遺言者を診断した医師は遺言者には遺言をするだけの意思能力がなかったという意見を述べました。公証人も医師も遺言者に対する質問と回答や態度などを詳しく述べていますが,裁判所は両者の意見を比較するなどして遺言能力はなかったと判断しました。

裁判所の判断

裁判所が遺言能力を判断するときに指摘した点のいくつかを紹介します。

1 公証人が遺言能力ありと指摘した理由のうち,「物忘れの自覚はかなり高度の認識能力がないとできない。」との前提は医学的根拠がない。

2 公証人が遺言能力の存否判断のポイントとした「家族関係の理解,財産関係の理解,相続させたい者に対する医師の明確性」の三点は,必要条件ではあっても充分条件ではない。

3 遺言者は,亡夫と義弟との関係を答えることができず,公証人から誘導されても自ら回答することができなかった。

4 遺言者は遺言書に記載されている財産のうち有限会社の株式を自分が所有していることを把握していなかったし,その他の財産状況についても自らは具体的な発言をしていなかった。

5 遺言者は,遺言直前の医師との面談において,遺言の対象財産の中で最も重要な財産である土地の上で営まれている施設について既に亡くなっていた亡夫が経営していると答えた。これはその土地を誰に相続させるのが適切かの判断を左右しうる前提事実について重大な誤認があることをうかがわせる。

他にもありますが,こういう事実から裁判所は,遺言者は遺言当時,医学的見地からも法的観点からも遺言能力を欠いていたと判断しました。

遺言能力とは

遺言とは自分の財産を死亡したときに処分することですから,それなりに高い精神能力が求められ民法上も15歳以上でなくてはなりませんし,意思能力が必要と解されています。事理弁識能力があり,さらにその遺言の内容について理解していることも必要です。遺言能力の有無が争いになると,公正証書にしたからといって絶対安全とは言えない場合も出てきます。

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