自筆証書遺言が有効であることの立証責任

自筆証書遺言が有効であることの立証責任

令和2年10月8日東京地裁判決

公証人が作成した公正証書遺言でもその有効性が問題になり判決で無効とされることがあります。自筆証書遺言の場合は有効性が争われることがずっと多く、判決で無効になることもしばしばです。自筆証書遺言の有効性が裁判の争点になった場合、
その立証責任は誰が負うのでしょうか。裁判というのは争点になる事実を立証できなかったときに立証責任を負う者が敗訴します。だから争点となる事実の立証責任をどちらが負うかはとても重要な問題なのです。
この点については「自筆証書遺言が有効であることを主張する者に立証責任がある。」という昭和62年10月8日の最高裁判例がありますが、東京地裁がこの最高裁判例にしたがって色々な点につき明確な判断を示したケースを紹介します。

自筆証書全体の立証責任に関する判決文

「自筆証書遺言が有効であるためには、その有効性をする当事者において、遺言者の全文を遺言者が自書したこと、氏名を遺言者が自書したこと、遺言者による押印があること、の各要件をすることを主張立証する責任がある(民法968条1項)。」

解説 この判決の元になった裁判は原告が自筆証書遺言の無効確認を求めた裁判でした。裁判では普通は原告の方が立証責任を負うのが一般的ですが、この場合は被告の方が自筆証書遺言の有効性を主張しているので被告がその立証責任を負います。
ちなみに昭和62年10月8日の最高裁は、「自筆証書遺言の無効確認を求める訴訟においては、当該遺言証書の成立要件それが民法968条の定める方式にのっとって作成されたものであることを、遺言が有効であるとする側において主張する責任があると解するのが相当である。」と全く同じ内容を言っています。東京地裁はこの判例にしたがったものです。
地裁判決は続いて自筆証書遺言の日付について論じました。

日付の立証責任に関する判決文

「民法が自筆証書遺言に日付の記載を要求しているのは、遺言者の遺言作成当時の遺言能力(同法961条、963条)の有無を判断するなどのための基準として日付が重要な意味を持ち、また、複数の遺言が存在して内容に抵触がある場合に、最後のものが遺言と認められること(同法1023条)との関係で、遺言作成の先後を確定する上で日付が不可欠となることによるものであることに照らすと、単に形式的な日付の記載があるだけでは足りず、実際に遺言書が作成された日が正しく記載されていることが必要であり、遺言書の真実の作成日と合致しない日付は無効である。
「そして、実際の遺言書の作成日に合致する有効な日付が記載されていることの主張立証責任は、自筆証書遺言の有効性を主張する当事者(被告)が負うと解するのが相当である。」
「民法は遺言書に記載された日付が遺言能力の有無や内容が抵触する複数の遺言の効力等の判断基準となり得る有効な日付であることも自筆証書遺言の一般的な成立要件として要求していると解すべき・・・」

解説

自筆証書遺言の日付は正確なものでなければならないと裁判所は判示しています。したがって、後日作られるかもしれない他の遺言に劣後しないようにずっと先の日付で自筆証書遺言を作っておいても無効になります。遺言を書くときに日を1日間違えて書いてしまったくらいだとまだ分かりませんが、わざと後日付で書かれた自筆証書遺言は無効になります。
そして、日付は自筆証書遺言の一般的な成立要件であるから、その日付に関する立証責任もまた自筆証書遺言の有効性をする当事者が負うと判示しています。裁判のルールでは立証責任を負う者が立証できないときは裁判で敗訴するので立証責任はとても重要なことなのです。

複数枚の遺言の一体性に関する判決文

遺言書が紙一枚で完結していれば遺言書の一体性は明確ですが、数枚の用紙でできている自筆証書遺言の場合、その全体の一体性が問題になる場合があります。複数の別々の紙を組み合わせて一つの自筆証書遺言に見せかけたのではないかという問題も出てきます。

判決文

「遺言の内容が記載された複数枚の紙面が一通の一体性のある遺言書を構成していることは、自筆証書遺言に要求される要件(遺言者が全文、日付、書名を自書し押印したこと)と相まって、遺言者が遺言書の作成時点においてした意思表示の内容を正確に把握するための不可欠の前提をなすものであるから、遺言者が一通の一体性のあることの主張立証責任は、遺言の有効性を主張する当事者が負うと解するのが相当である。」

解説

複数枚の自筆証書遺言の場合、その用紙や書かれている文字や内容などが不自然で一体のものに見えない、紙が差し替えられているのではないかという場合があります。たとえば、用紙ごとに文字の大きさが違う、文字の間隔が違う、送り仮名が違う、番号の記載の仕方が違う、文字の勢いが違う、筆記用具が違う、不自然な空白部分がある、遺言書の日付と書かれている内容が矛盾する、用紙の一部切り取られている、これらの相違点は一つ一つは大きな違いではありませんが、それらが多数積み重なった場合には偶然の産物とは言い難く、自筆証書遺言の一体性を揺るがすことになります。
自筆証書遺言の有効性について疑問があるときは事務所に連絡してください。

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