相続,寄与分が認められた場合

今回は寄与分が認められる具体的なケースを紹介します。

1 家業従事型

被相続人の事業に関する労務の提供があった場合です。たとえば,被相続人が農業,林業,漁業,製造業,小売業,その他の自営業(工務店,飲食店,医師等)などの事業を営んでいて,その事業のために相続人が給料ももらわずに働いていた場合などが考えられます。父親の経営するお店や工場で子供が親を手伝って働き続けていることは現在でも結構多いようです。 「特別の寄与」でなければいけませんから家業を手伝っていたというだけでは足りません。寄与していた期間が10年以上の長期間の場合の方が認められやすくなるようです。

少し古いものが多いですが寄与分に関する事例をあげてみます(本当は「判例」を指摘したいのですが,判例というのは厳密には最高裁判例のことを言うので,相続のような家事事件の場合,高裁までで決着することが多くて最高裁判例になりませんし,下級審決定も出版物に掲載されないことが多いのです)。

1.被相続人の妻が結婚後26年間,一緒に農業に従事していたケースで寄与分を30%認めました。

2.被相続人の子の一人が家業の中華料理店を16年間,小遣い程度の報酬で手伝って,その間に破産の危機を回避するという貢献もしていたというケースで寄与分を10%認めました。

3.被相続人の子の一人が家業の建築請負業を30年間,多大な労力を提供してきたというケースで,寄与分を11%認めました。

4.被相続人の子の一人が医師として22年間,被相続人が経営する医院で診療を手伝ってきたというケースで寄与分を10%認めました。

このように寄与分が認められたケースもありますが,寄与分はそれほど広く認められるということではなく,3年間家業を手伝った程度の貢献では特別の寄与とは認められないと否定されたケースもたくさんありますし,生前に受けた贈与によって既に寄与分は清算済みであると判断されたケースもあります。認められたケースでも10%、11%,30%という割合の立証にも苦労したと推察されます。

2 金銭等出資型

被相続人の事業に関する財産上の給付をした場合です。相続人が被相続人の事業のために資金を出した場合,被相続人の事業に関する借金を相続人が代わりに返済した場合などが該当します。

財産上の給付というのは金銭を交付した場合だけではなく,不動産所有権を移転したり,不動産を使用させた場合なども含まれます。不動産を使用させていた場合は賃料相当額を給付したというのが一つの考え方になります。

被相続人の事業に労務を提供するだけでなく,同時に金銭も提供したというケースもあります。そういう場合は総合的に貢献度が判断されることになります。

被相続人の事業以外で資金を拠出した場合

なお,被相続人の事業とは関係ないことで資金を出したり,事業と関係ない借金を代わりに返済した場合は,これには含まれず最後にある「その他の方法」に該当するかどうかが問題ということになります。 共稼ぎ夫婦で夫名義の不動産(マンション,土地,建物)を購入したときに,妻が自分の収入から得た資金を提供した場合などが考えられます。 寄与分を主張するためには,資金を提供したという証拠,その資金が自己資金であることの証拠などを残しておくことが大切になります。

3 療養看護型

被相続人の療養看護(その他の方法)。被相続人の生活費を負担して扶養したことによって被相続人の遺産が減ることを防止した場合です。

ただし,民法上,「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。」(752条)し,「直系血族及び兄弟姉妹はお互いに扶養をする義務がある。」(民法877条)。ので,たとえ相続人が被相続人を扶養していたのが事実だとしても,それが扶助義務や扶養義務の範囲内である場合には「特別の寄与」とは認められません。

しかし,相続人の一人だけが,他の相続人よりもずっと多くの負担をして扶助していた様な場合には,相続人間の公平を図るために,分担義務を超える範囲については「特別の寄与」を認める余地があります。現実にはこういうケースの方が多いかもしれません。

療養看護の場合は,相続人が療養看護することによって被相続人の遺産を維持した(遺産が減少することを防いだ)ということが必要です。

具体的な事例を紹介します。

1.被相続人妻が被相続人を20年以上,療養看護した場合で寄与分を6.8%認めたというケースがあります。

2.被相続人の子が10年間同居しながら,精神的に異常な言動が現れ,ときおり,尿や便を垂れ流す被相続人を療養看護した場合で,寄与分を25%認めたというケースがあります。 被相続人が療養看護を必要だった期間は長いとは限らないので,比較的,短期間でも寄与分を認めたケースもあります。 こういうケースでは,通常の扶養の範囲内なのか特別の寄与なのか,その他の相続人はどうしていたのか,そして,療養看護をしたという事実をどうやって証明するかが問題となります。

4 財産管理型

財産管理型とは,被相続人の財産管理を行い,管理費用の支出を免れさせるなどして遺産の維持に寄与した場合のことです。

不動産(土地建物)を賃貸し管理していた場合や修繕や維持を続けた場合,公租公課を負担していた場合などです。

事例を紹介します。

1.被相続人の子が,約20年間,遺産である家屋を修理修繕して維持した場合で,寄与分として3%を調停で認めたというケースがあります。

2.被相続人の子が,約15年間,遺産である貸家の管理事務を行った場合で,寄与分を10%認めたというケースがあります。 あくまでも特別の寄与でなければならないので,ただ,住んでいた,手入れしていた,ときどき修理した,その金額は分からない,という程度では寄与と認められません。

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