相続後にマンションを建てて占有していたが取得時効が認められなかった例

大阪高裁平成29年12月21日判決(判例時報2381号)

共同相続人の一人が遺産の土地上にマンションを建てて占有したので時効取得を主張したけれども認められなかった例。

事案

昭和37年に被相続人が亡くなり,相続人は妻と5人の子どもたちでした。
問題の土地はもともと農地でしたが昭和46年に土地区画整理法による換地処分がなされ宅地として登記されました。なお本件土地以外の複数の土地の大半は相続人らが法定相続分によって相続された旨の登記がなされていました。
昭和48年,長男は本件の土地上にマンションを建設し以後,第三者に建物を賃貸して賃料を取得し,本件土地等の固定資産税等を全額支払ってきました。
裁判で,長男は昭和48年に遺産分割協議が成立していることを主張し,予備的に昭和48年以降は自分名義のマンションを建てて本件土地を占有していたとして時効取得を主張しました。

法律上の問題点

遺産分割協議が行われたかどうかは事実の問題,裁判における事実認定の問題なので証拠の有無で決せられます。どちらの証拠が強いか,です。特別の法律問題はありません。
時効取得については根本的な法律問題があります。取得時効は自主占有でなければ成立しません。自主占有とは所有の意思をもった占有のことです。しかし,「俺のものだ。」と思っているから自主占有になるということではありません。所有の意思のある自主占有か所有の意思のない他主占有かは,占有の権原の性質によって決まります。たとえば建物の賃借人は大家が所有している建物をお金を払って占有しているのですから,他人の物の占有者であり自主占有ではありません。賃貸借が占有取得の原因であるときは他主占有であるとされます。
共同相続人の一人が単独で相続財産を現実に占有している場合,他の共同相続人の持分については,権原の性質上,客観的にみて所有の意思がないから,占有者に単独所有者としての所有の意思がなく,一般的に他主占有とされています。「共同相続」という権原によって決まるわけです。
また,他主占有が自主占有に変わるためには,自己に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示することが必要です(民法185条)。
この事件においては,長男が本件土地の上に,自分名義のマンションを建て,第三者に貸して賃料を取得していた,他の相続人から異議を出されたことが無いなどの事情がありましたが,高裁は自主占有へと変わったと認めませんでした。

高裁の判決

(読みやすくするために改変しています)
「本件土地は,被相続人の死亡により,共同相続人である妻や子どもらの共有となり,
長男は相続開始の直後の時期から本件土地を単独で耕作することにより,これを占有(事実的に支配)していたということができる。
しかし,長男は共同相続人の一人として本件土地の持分10分の1を有するにすぎないのであるから,本件土地の持分10分の9についての被控訴人の占有は,権原の性質上客観的にみて所有の意思がないのであって,長男の本件土地に対する占有は,単独所有者としての所有の意思を伴うものということはできず,これを自主占有ということはできない。」
(注 これは相続のときの一般論に等しいです。)
そこで,以下,長男の本件土地に対する占有の性質が自主占有に変更したかどうか,すなわち,被控訴人が民法185条にいう「新たな権原によりさらに所有の意思をもって占有を始める」に至ったかどうかについて検討する。
・・・
共有土地に共有者の一人が建物を建築したが,他の共有者との間で建物所有を目的とした土地の賃貸借または使用貸借が合意されていないという場合,一般的にいえば,他の共有者の持分が無断で使用されていると考えられるのである。
したがって,建物を建築してその敷地に対する独占的な占有を開始したという事実日あっても,そのことから当然に,当該占有開始時に土地の占有権原が当然に自主占有になったということはできないし,単独所有の土地となったものと信じて当該不動産の占有を始めたなどの自主占有事情が直ちに基礎づけるものでもない。
昭和48年以降における長男の本件土地の占有も同様に理解することになるが,全ての共同相続人間で遺産の分割協議がなされていないことからすれば,長男は本件土地を共同相続人の一人として占有していることを認識したうえで,本件建物を所有して本件土地を占有しているにすぎないと評価すべきである。
・・・
長男による独占的使用状態に異議を述べていないとしても,控訴人らが本件土地について相続分を主張してその遺産分割を求めたり,法定果実の清算を求める等の権利行使が妨げられる事情もまた見当たらない。
・・・
本件建物の建築を機に長男が控訴人らに対し,自らが本件土地の所有者であることを伝えるなど,所有の意思があることの表示をした事実を認めるに足りる証拠もない。
以上によれば,本件建物の建築による本件土地の独占的使用状態をもって自主占有事情があったとする長男の主張は採用できないのであって,長男が昭和48年に本件土地の自主占有を開始したと認めることはできず,同日を起算日とする長男の時効取得の主張は理由がない。

解説

高裁の認定は極めて妥当なものだと思います。これに対し,破棄された一審判決は,マンションの建築,マンション賃料の独占,本件土地の固定資産税の納付等の事情を重く見て自主占有と認めました。しかし,一審の様な考え方だと,遺産である土地の一部を一人で勝手に使い,他の相続人が文句も言えずに黙っていると権利を失うという結果になります。黙っていると権利を失う場面はよくありますが,高裁はここではそういう考え方を取りませんでした。

実は昭和47年9月8日最高裁判例で,自主占有への転換を認めたものがありますが,それは自己が単独で相続したと誤信うえで相続開始と同時に現実に占有を開始したものですので事案が異なります。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です