配偶者短期居住権・配偶者居住権

相続法の改正により、被相続人の配偶者に対し、配偶者短期居住権と配偶者居住権という二つの新しい権利が生まれました。その解説をします。

配偶者短期居住権とは(1037条)

相続が発生した場合、被相続人の建物に無償で居住していた被相続人の配偶者の居住の利益を守るために、最低6カ月間は配偶者はそのまま住み続けることができるという権利です。とりあえず住み続けることができるという暫定的な権利で、配偶者居住権よりも弱い権利です。

配偶者短期居住権が認められる場合

配偶者短期居住権が認められるためには、相続開始時に被相続人が所有する建物に、無償で、居住していたことが必要です。有償で居住していた場合は賃貸借等の他の居住権が存在していたはずなので認められません。
この要件が満たされると当然に配偶者短期居住権が発生します。配偶者が相続放棄をした場合であっても配偶者短期居住権は認められます。

配偶者短期居住権で居住できる期間
配偶者短期居住権が認められると、相続開始のときから6カ月、または遺産分割により居住建物の帰属(誰が相続するかということ)が確定した日のどちらか遅い日まで居住することができます。

配偶者短期居住権の内容

配偶者短期居住権が認められると、それまでと同じ範囲で無償で建物を使用することができます。

配偶者短期居住権の消滅請求

遺産分割により配偶者以外の者がその建物を取得することになった場合、建物所有者は配偶者短期居住権の消滅請求をすることができます。この申し入れから6カ月経過すると配偶者短期居住権は消滅します。

配偶者居住権(1032条)

配偶者居住権は、配偶者短期居住権のように自動的に認められる権利ではなく、遺言や遺産分割によって認められることのある権利です。

配偶者居住権の趣旨

遺産分割で配偶者がその建物を相続することになれば建物の所有権者としてそのまま住み続けることができます。しかし、建物の所有権だと価値が高いので、建物を相続分どおりに相続した場合には預貯金の相続が減って生活が苦しくなることもあります。そこで、所有権ではなく「配偶者居住権」という所有権よりも価値の低い権利を創設し、住み続けながらより多額の預貯金を相続できるようにするという制度です。「配偶者居住権」という一代限りの限定的で評価の低い不動産利用権を新たに作ったことに意味があります。

配偶者運居住権が認められる場合

配偶者居住権は、遺言で残すか、相続人の協議による遺産分割のどちらかの方法でないと認められません。つまり、被相続人に遺言で書いておいてもらうか、相続人の話合いで決めることになります。

家裁の審判による配偶者居住権

家庭裁判所の審判で配偶者居住権を認めることは可能なのですが、そのためには相続人間で配偶者居住権を取得することについて合意があり、かつ、配偶者が配偶者居住権の取得を希望しないと出来ません。したがって、相続人間の合意が最低条件です。

配偶者居住権の登記

建物の所有者は配偶者居住権設定の登記をする義務を負います。配偶者は配偶者居住権の登記をする権利を有することになります。
登記を設定すると第三者に対する対抗要件を備えたことになるので、たとえば居住建物を買い受けた第三者に対しても配偶者居住権を主張することができるようになります。

配偶者居住権の用法遵守義務

配偶者は、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって、居住建物の使用及び収益をしなければなりません。

配偶者居住権は建物全体に成立します
配偶者居住権は、配偶者が相続開始時に建物の一部でも居住の用に供していれば建物の全体について成立します。

配偶者居住権の譲渡

配偶者居住権は譲渡できません。

建物の修繕・改築

配偶者は建物を居住の用に供するため必要な修繕(雨漏りの修理など)をすることができます。建物所有者の許可は不要です。ただし、その修繕のための通常の必要費は配偶者が負担する必要があります。
配偶者が建物を改築・増築したいときは、建物所有者の承諾が必要です。
居住建物を第三者に賃貸して家賃を得たいと思ったときも、建物所有者の承諾が必要です。配偶者居住権は本来、配偶者の居住の利益を守るための権利ですから所有権の様に自由に賃貸や譲渡はできないのです。

※ 配偶者と子どもたちが相続人となる場合は、配偶者(子どもの父か母)の生活を考えて遺産分割していたので、これまでもあまり問題は起きませんでした。しかし、相続人間の人間関係によっては大きな問題になりうるところに配偶者居住権は一つの選択肢を増やしたものです。

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