死亡退職金と相続に関する判例

死亡退職金と相続に関する判例を紹介します。

昭和60年1月31日最高裁判決

退職金規程が死亡退職金につき単に「遺族にこれを支給する。」とのみ定めていた場合に関する最高裁判例です。

事案

退職金規程は被相続人が亡くなった当時は「遺族にこれを支給する。」とされていたのですが,後に,「死亡退職金の支給を受ける遺族は,(1)職員の死亡の当時主としてその収入により生計を維持していたもので,(2)第一順位は配偶者(届出をしていないが,事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)であり,配偶者があるときは子は全く支給を受けない,(3)直系血族間でも親等の近い父母が孫より先順位となる,(4)嫡出子と非嫡出子が平等に扱われる,(5)父母や養父母については養方が実方に優先する」,と退職金規程が変更された事案です。

最高裁の判断

最高裁は変更後の定めは専ら職員の収入に依拠していた遺族の生活保障を目的とし,民法とは別の立場で受給権者を定めたもので,受給権者たる遺族は,相続人としてではなく,右規程の定めにより直接これを自己固有の権利として取得するものである(最高裁55年11月27日判決),そして,改正前(亡くなったのは退職金規程の改正前です)にも「遺族」と定められていたことなどから特段の事情のない限り,改正前の規程も同じ趣旨であった,遺族の第一順位は職員の死亡の当時主としてその収入により生計を維持していた配偶者(届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む。)であると判断しました。 退職金規程を変更した後の決め方を参考にして変更前の趣旨を判断したという事実認定にもかかわる事件です。

退職金規程がなかった場合

最高裁昭和62年3月3日判決は退職金規程が無かった事案でした 財団法人の理事長が亡くなりました。死亡当時その財団法人には退職金支給規程は存在しなかったのですが,財団法人は理事長のの死亡後,同人に対する死亡退職金として2000万円を支給する旨の決定をしたうえ,理事長の妻に支払いました。この死亡退職金が,相続財産として相続人の代表者としての妻に支給されたものなのか,それとも,相続という関係を離れて理事長の妻に対して支給されたものなのかが争いとなりましたが,原審は相続人ではなく妻に対して支給したと認定し,最高裁もそれを是認したのです。

この判決から考えると,退職金規程なしに死亡退職金が支払われた場合は,退職金規程がないにもかかわらず勤務先から死亡退職金が支払われることになった趣旨,誰に対して支払ったのか?によって結論が変わるということになりそうです。

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