相続放棄の熟慮期間の起算点を相続債務の存在を知ったときとした例

被相続人が亡くなってから3ヶ月を超えて相続放棄をしたいときは必ず家庭裁判所が認めてくれるという保証はありません。この事件でも一審は相続放棄を認めませんでしたが,高裁は相続放棄を認めて相続人を救済しました。

福岡高裁平成27年2月16日決定

事案

被相続人は昭和63年に死亡しました。被相続人の妻は自分が事業を承継したいので遺産である自宅不動産と店舗不動産を分け与えないことにしたいと二男に言い、二男はそれを了承しました。長女と四男は相談もされませんでした。被相続人の妻は家業を行い長男はそれを手伝っていました。

平成8年に被相続人の不動産は妻に移転登記されました。

ところで,被相続人は昭和50年に〇〇協同組合が県から1億8000万円の貸付を受けた際にその連帯保証人になっていました。

平成25年にその協同組合が破産したので,平成26年5月13日,県は二男,長女,四男らが保証債務を相続したとして,貸付金の残額(約5000万円)の償還にかかる説明会を開催するという通知をしました。

二男、長女,四男らは,平成26年7月23日,家庭裁判所に相続放棄の申述受理の申立をしました(通知から3ヶ月以内に申立をしていることが重要です)。長男は既に死亡し,妻は老人ホームに入所しています。二男,長女,四男らは被相続人の財産を全く相続していませんでしたし,移転登記されたことも知りませんでした。

家裁の却下審判

相続放棄の申述受理の申立を受けた家裁は,昭和59年4月27日最高裁判例を引用し,申立人らは相続財産が全く存しないと信じたために相続放棄しなかったとは認められないとして,申立を却下しました。

高裁決定

高裁は,昭和59年最高裁判例を引用したうえで,申立を認め受理しました。次が高裁の法的な判断部分です。

「また,相続人が相続財産の一部の存在を知っていた場合でも,自己が取得すべき相続財産がなく,通常人がその存在を知っていれば当然相続放棄をしたであろう相続債務が存在しないと信じており,かつ,そのように信じたことについて相当の理由があると認められる場合には,上記最高裁判例の趣旨が妥当するというべきであるから,熟慮期間は,そうそく債務の存在を認識した時または通常これを認識し得べきときから起算すべきものと解するのが相当である。」として,相続放棄の申述を受理しました。

二十数年前の相続で,何ももらわず,もらわなくてもいい,とっくに終わったものと思っていたら,突然,債務を相続したから5000万円払えと言われて,しかもそれが40年位前の保証債務だったとは・・・あまりにも酷い状況ですから高裁が救済したのは良かったと思います。 この事案の鍵は,債務の存在を知ってから3ヶ月以内に相続放棄の申述受理申立をしたことです。これがなかったら救済されなかったかもしれません。

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