遺留分算定の基礎となる財産,贈与

遺留分算定の基礎となる財産は次のものです。

1 相続開始時(被相続人が亡くなったとき)に被相続人が有していた財産

2 被相続人が贈与した財産(条件を満たした贈与だけです)

被相続人が亡くなったときに有していた財産とは遺産のことですから,遺産が遺留分の対象になることはすぐに理解できます。しかし,相続のときに残っていた遺産だけが遺留分減殺の対象だとすると,生前に多額の贈与をしていた場合,遺留分の制度が無意味になってしまいます。そこで生前贈与も遺留分減殺の対象になることが認められています。ただし,全ての生前贈与を遺留分減殺の対象として含めてしまうと,贈与されたものが既に処分されていた場合など取引安全を損なうので,遺留分の対象になる生前贈与は一定の範囲(1年という時間的な基準と損害を加える意思という二つの基準)に限定されています。 この遺産と贈与の両者を加えたものから,相続債務を控除した財産が遺留分算定の基礎となります。

遺留分算定のときに加算される贈与の条件

1相続開始前の一年間に契約された贈与(1030条)

贈与が履行されたときではなく,贈与契約が締結されたときが基準となります。ですから,相続の2年前に贈与契約が締結されていたときは,その履行が相続の半年前であってもこれに該当しません。

2 遺留分権利者に損害を加えることを知った贈与

遺留分権利者に損害を加えることを知ってされた贈与については,相続の一年前よりも過去にこれたものであっても遺留分算定の基礎財産に算入されます。

3 特別受益となる贈与(1044条,1030条)

特別受益となる贈与は,相続の一年前かどうかも,遺留分権利者に害を加えることの認識の有無を問わずに全て加算されます(最高裁判例により遺留分減殺を認めることが酷であるという特段の事情のある場合を除きます)。したがって,共同相続人に対してなされた生前贈与(903条)は,一年前でなくても,損害を加える意思がなくても,全て遺留分減殺の対象になります。

最高裁平成10年3月24日判決

この最高裁判決は,次のように言っています。

「民法903条1項の定める相続人に対する贈与は,右贈与が相続開始よりも相当以前にされたものであって,その後の時の経過に伴う社会経済事情や相続人など関係人の個人的事情の変化をも考慮するとき,減殺請求を認めることが右相続人に酷であるなどの特段の事情のない限り,民法1030条の定める要件を満たさないものであっても,遺留分減殺の対象となるものと解するのが相当である。

けだし,民法第903条1項の定める相続人に対する贈与は,全て民法1044条,903条の規定により遺留分算定の基礎となる財産に含まれるところ,右贈与のうち民法1030条の定める要件を満たさないものが遺留分減殺の対象とならないものとすると,遺留分を侵害された相続人が存在するにもかかわらず,減殺の対象となるべき遺贈,贈与がないために右の者が遺留分相当額を確保できないことが起こり得るが,このことは遺留分制度の趣旨を没却するものというべきだからである。」

相続人に対する贈与は原則として遺留分減殺対象になる

相続で問題となる場合の多くは共同相続人の間で発生します。遺言も赤の他人ではなく共同相続人の中の一人に遺産が残される場合がほとんどです。したがって,相続人の誰かになされた贈与は,原則として特別受益となり遺留分減殺の対象になることが多いということになります。結局,相続人に対してなされた贈与は,特別受益に該当するかが大きな問題になって,一年前かどうかとか,損害を加えることの認識などは二次的な問題となります。

ただし,例外的に,遺留分減殺請求を認めることが酷である場合には遺留分減殺ができません。その具体的な例は今後の判例を待つ他ありません。

特別受益とは,「共同相続人中に被相続人から遺贈を受け,または婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者がいる場合」のことです(民法903条)。この特別受益に該当する場合,その贈与は遺留分算定の基礎になります。

この最高裁判例は,「その後の時の経過に伴う社会経済事情や相続人など関係人の個人的事情の変化をも考慮するとき,減殺請求を認めることが右相続人に酷であるなどの特段の事情のない限り」という限定を付けています。したがって,特別受益にあたる贈与であっても,減殺請求を認めるとその相続人に酷であるという特段の事情があるときは,遺留分減殺請求ができないこともあり得ます。 結局,遺留分の関係では,特別受益にあたる贈与があったかどうかと特段の事情の有無が大きな争点になります。

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