限定承認と相続放棄

相続というのはプラスの財産だけでなくマイナスの財産も引き継ぐので,相続人にはなったけれども遺産よりも借金が多い場合は,相続すると経済的にはかえって不利になります。そういうときに利用できる制度が2つあります。限定承認と相続放棄です。

限定承認(民法922条)

限定承認とは,相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済することを留保して,相続を承認することです。そうすると,相続して得た財産が債務よりも少ないので相続したためにかえって損をした,ということはなくなります。相続人にとってとても便利な制度のように見えますが,実際に利用するにはとても面倒な制度です。

まず限定承認は,相続人が複数いるときはその共同相続人全員が共同してのみ行うことができます(923条)。一人でも反対者がいるとできません。

次に相続を知ってから3ヶ月以内に,家庭裁判所に対して,相続財産目録を作成して提出し,限定承認する旨を申述しなければなりません(924条)。家庭裁判所での手続が必要ですし期間も限られています。

そして,限定承認をしてから5日以内に全ての相続債権者及び受遺者に対し,限定承認をしたこと,一定の期間内にその請求の申し出をすべきことを公告しなければなりません(927条)。

この他にも手続があり,率直に言って煩雑すぎます。限定承認した方がいいのではないかというのは,つまり,プラスの財産とマイナスの財産のどちらが多いか良く分からないからです。プラスの方が明らかに多ければ単純承認してから借金を払えば良く,マイナスの方が明らかに多いときは相続放棄すればいいのです。そうすると,結局,相続財産の内容が良く分からないから困るということなので,面倒な限定承認を考えるよりも早く相続財産,とくに借金を調べることに努力した方が有効だろうと思います。

相続放棄(938条)

相続放棄すると,最初から相続人ではなかったことになります。これも3ヶ月という期間制限があり,期間内に家庭裁判所に相続放棄の申述をすれば大丈夫です。

問題は,相続が起きてから半年も1年も経ってから場合によっては何年も経ってから,突然,金融会社から督促が来た場合です。被相続人が借りていた借金を相続人に対して請求してくることはしばしば見られます。そうなると遅延損害金もついて結構莫大な請求が来ることがあります。しかし相続を知ってから3ヶ月という期間はとっくに過ぎています。いまさら相続放棄はできないのでしょうか。

実はこういう場合もすぐに家庭裁判所に行って相続放棄の針術をすれば(遅くとも督促が来てから3ヶ月以内に)相続放棄を認めてくれる場合があります。相続放棄をするかどうかの熟慮期間を延長してもらいそのうえで相続放棄することが可能なのです。ただし,相続した財産を使ってしまってから借金だけ相続放棄したいというようなケースでは家庭裁判所が認めてくれるかどうか疑問です。本来はダメなものを認めてもらうのでそれなりに事情は考慮されるでしょう。

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