認知症高齢者の養子縁組が無効とされた例

名古屋高裁金沢支部平成28年9月14日判決

事案

認知症の高齢者が養親となり他人(高齢者が土地を貸した飲食店の従業員で頻繁に訪れ頼まれ事をしたりしていた)と養子縁組をしたことに対して,高齢者の妹が養子縁組の無効を主張して裁判を起こしました。一審は養子縁組を有効としましたが, 高裁は無効と判断しました。

裁判所の判断

裁判所は次の事情などから高齢者には養子縁組するだけの判断能力も、養子縁組の意思もなかったとして平成25年8月20日に行われた養子縁組を無効と判断しました。

1 かねてから妄想がみられた。

2 遅くとも平成23年8月頃から,認知症の症状が現れていた。

3 平成24年11月には,92歳という年齢相応の脳萎縮があり,見当識障害と著しい記憶障害によりアルツハイマー型認知症に罹患し後見相当の精神状態にあると診断されていた。

4 この状態は養子縁組届が作成され,かつ,その届出がなされた平成25年8月20日前後の時点においてさらに進行し,客観的な所見として著明な脳萎縮が認められたほか,長谷川式及びMMSEの数値は高度の認知症があることを示し,しかも,見当識障害及び記憶障害が著しく,尿失禁等の周辺症状もみられた。

5 高齢者は弁護士に依頼して平成26年,養子縁組取消調停を申し立てたが,その際の主張はまさに本件養子縁組の無効をいうものであった。

これらの事情から,本件養子縁組当時の高齢者の精神状態に照らして,養子との間で人為的に親子関係を創設し,扶養,相続,祭祀承継等の法的効果を生じさせることを認識するに足りる判断能力を備えていたとはいえず,かつ,その意思を有していたとも認められないことを考慮すれば,高齢者は縁組意思がなかったと認めることができるから本件養子縁組は無効である,と裁判しました。

養子制度の利用

養子縁組制度は,子供が欲しいとい場合だけでなく,氏を残すため,家系を伝えるため,財産を残すため,相続税軽減のためなどに利用されることがあります。これを養子の側から見ると,養子縁組の届を出すだけで養親の財産に対する相続権が発生することになります。寂しい思いをしている高齢者に取り入って財産を騙し取ったりする人がいますが,養子縁組制度を利用すると法的に財産を得ることも可能となるので悪用されるととても危険です。それを防ぐには高齢者を孤独にしないことが大切でしょう。

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